クローン病患者の看護計画
#1低栄養・貧血・電解質バランスの乱れにより倦怠感がある
目標:「しんどい」等、疲労や倦怠感に関する訴えが減少する
OーP(観察)
1 全身倦怠感の有無と出現時の状況
2 ぐったりとした様子
3 労作と倦怠感の関連
4 TP、Alb
5 Hb、Ht、RBC
6 電解質データ
7 体重、BMIの変化
TーP(実施)
1 労作時にはいつでも休息が取れるように配慮する
2 倦怠感の状況に合わせ、日常生活を援助する
3 労作が最小限で済むように環境整備を行う
EーP(教育)
1 動き方、休息の取り方を指導する
#2低栄養状態により貧血である
目標:食事療法、薬物療法の実施管理を行う。貧血症状を観察する
OーP(観察)
1 RBC、Hb、Ht
2 顔色、眼球結膜、口唇の色
3 ふらつき、息切れ、動悸、頭痛、倦怠感の有無
4 労作と貧血症状との関係
TーP(実施)
1 食事療法、薬物療法を実施する
2 安静保持への援助(日常生活援助)を行う
3 皮膚、粘膜を保護する
EーP(教育)
1 安静の必要性を説明する
2 急な動作、長時間の立位を避けるように話す
3 食事指導を実施する
4 服薬指導を実施する
#3著しいヤセや副腎皮質ステロイドの副作用により、ボディ・イメージの混乱がある
目標:鏡を見ることが出来るようになる。キーパーソン以外の人とも面会できるようになる
OーP(観察)
1 鏡を見たり自分の身体をみたりしているか
2 キーパーソン以外の面会者の有無
3 病室外に出ることの有無
4 自分の身体についてどのように表現しているか
5 自分の身体をどのように扱っているか
6 キーパーソンが患者の外観の変化をどのようにとらえているか
TーP(実施)
1 身体的ケアを十分時間をかけて丁寧に行う
2 時間をかけて受容的、共感的関わりを持つ
3 患者会への参加を進める
EーP(教育)
1 キーパーソンに対してキーパーソン自身の反応が重要であることや受容的関わりについて指導する
#4副腎皮質ステロイド使用により、副作用出現の恐れがある
目標:ステロイド療法の実施管理を行う。副作用を観察する
OーP(観察)
1 易感染
2 消化性潰瘍(胃痛、下血、便潜血)
3 糖代謝異常(食欲亢進、尿糖の排出、尿量増加、口渇、倦怠感)
4 精神症状(イライラ、集中力の無さ、落ち着きのなさ、不眠、うつ状態)
5 骨粗鬆症:骨痛
6 ムーンフェイス
7 多毛
TーP(実施)
1 指示により、ステロイド療法を実施する
2 副作用出現時のケアを行う
EーP(教育)
1 指示書、時間を守って服薬することの重要性を指導する
2 副作用について指導する
a 多くの副作用は2~3日、長期の副作用でも4週間程度で消失改善する
b 減量は必ず症状、検査値を指標して行う
アセスメントの視点と根拠・起こりうる看護問題
1全身状態と日常生活の把握
起こりうる看護問題:内服薬のコンプライアンス低下による症状悪化の可能性/日々の生活で注意していても再燃したことに対して無力感を抱いている可能性
患者から身体的・心理的な状態を聴くことで全人的なケアを行うことができる。心理的な状態は進行や治療効果にも関係している
・ 全身状態の把握
・ 再燃を起こしたきっかけになりうることはないか把握する
・ 服薬は処方通りであったか、内服薬のコンプライアンスについて把握する
・ 生活の変化や出来事など社会生活上の変化について把握する
・ 1日の過ごし方について尋ねる
・ 症状の悪化についてどのように受け止めているか、患者家族の思いを知る
2症状と出現状況、程度の把握
クローン病は口腔から肛門に至るまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍が起こりうる疾患で、特に小腸大腸が好発部位である。
主な症状は腹痛、下痢、発熱、体重減少で侵襲部位によって多彩な症状を示す。根治的な治療法はないため、症状の軽減とQOLの向上を目標に看護にあたる。
治療は長期にわたるため患者家族の疾患治療に対する理解が求められる
(腹痛)
起こりうる看護問題:腸管の炎症による腹痛/苦痛による不安/活動範囲の縮小/役割遂行の困難
・ 腹痛の部位と程度、増強因子と緩和因子について把握する
・ 悪心嘔吐の有無、消化管の狭窄が伴うと嘔吐が見られる
・ 大腸下部に狭窄があると、排便に伴う下腹部痛が生じたり頻回で少量づつの排便や便失禁が生じたりすることもある
・ 持続する局所的な痛みや高熱を伴ったり、炎症性の腫瘤を触知する場合には、膿瘍形成の可能性もある
(下痢)
起こりうる看護問題:体液量の不足/電解質バランス異常/肛門周囲の皮膚障害/長官の炎症による下痢/社会生活の制限
・ 排便回数と便性状、便の量など下痢の程度を把握する
・ 常に下痢が持続していることも多いが、下痢が悪化した時期を把握する
・ 下痢が持続すると体液電解質バランスを崩しやすくなる
・ 高度な下痢が持続すると亜鉛欠乏症の原因となり悪循環となる
・ 血中の亜鉛濃度が低下すると、味覚異常や皮疹、口内炎などが起こる
・ 腸管に狭窄や瘻孔がある場合、腸管内容が停滞することで腸内細菌の異常増殖を引き起こし胆汁酸が脱抱合し脂肪吸収が阻害されて脂肪便となる
・ 高度な下痢が持続すると肛門周囲の皮膚に障害が生じたり悪化したりする
・ 生活活動範囲が縮小され、社会生活に支障をきたす
(発熱・倦怠感)
起こりうる看護問題:社会生活の制限/疾患による発熱、倦怠感による苦痛
・ 再燃時には微熱を認めることが多い
・ 高熱の場合は、合併症としてふっくう内膿瘍など局所の炎症が起こっていることもある
(肛門痛)
起こりうる看護問題:社会生活の制限/人に話しづらい疼痛
・ 肛門周囲の皮膚、苦痛の程度を把握する
・ クローン病では肛門皮膚垂や裂肛、痔瘻など特異的な肛門病変が約80%と高頻度に合併する
・ 肛門病変は難治性で、苦痛を伴い社会生活に影響を及ぼす
・ 羞恥心から肛門痛があることを隠していることも多い
・ 疼痛があるため排便量を減らそうとして過度な食事制限をすることもある
(その他の随伴症状)
起こりうる看護問題:腹痛や下痢による苦痛
・ 関節炎:肘関節、手関節、膝関節、足関節など
・ 皮膚症状:結節性紅斑、壊疽性膿皮症など
・ 口内炎:アフタ性口内炎など
・ 眼症状:ブドウ膜炎など
3栄養状態の把握
起こりうる看護問題:栄養状態の悪化/体力・気力の低下/感染リスクの増大
長期にわたる腸管の栄養吸収障害や持続する下痢から、栄養状態が悪化することがある。その時の病状に合わせた栄養法で、効果的に栄養補給することが必要とされる。
また、栄養状態が悪化することで防御機能も低下し感染リスクも高まるとともに、活力が低下してQOLは低下する
・ 現在の栄養法とその具体的方法と内容を把握する。社会生活を送る中で処方通りの実施が困難で必要量の栄養が摂取できていないこともある
・ 実施している栄養法を行う上で困難なことを把握する
・ 身程度、皮膚の弾力性、顔色などから栄養状態を把握する。また血液検査データから栄養状態を把握する
4内服状況の確認
起こりうる看護問題:薬物療法が効果的に行われていない/内服継続の負担/内服を生活にうまく取り込めない
処方されている薬物を処方通りに内服できているか確認する。ほとんどの薬は量や成分を調整しながら内服するため煩雑である。
何らかの理由から効果的な内服が継続できていないと、治療効果も期待通りにいかず、再燃の可能性も高まるため内服の状況を知ることは有益である
・ 治療経過を知り現在処方されている薬物の種類と処方内容を知る。処方通りに内服していたのか患者に確認するとともに残薬を確認する
・ 処方通りに内服できていない場合は、必ずそこには理由があるため患者本人が確認する
・ 薬物による副作用について情報収集する
5患者家族の疾患に対する受け止めの把握
起こりうる看護問題:予後、治療効果の不確かさに対処困難/疾患や治療法の知識不足により療養生活が困難/疾患を持つ自分や治療している自分を受け止めることが困難
根治的治療が現在はなく、寛解期と再燃期を繰り返し長期にわたってうまく付き合うことが要求される疾患である。
従って、再燃期を少しでも遅らせて寛解期を維持するには患者自身のセルフケアが重要なポイントとなる。
症状悪化のきっかけとなるものや疾患の経過、治療内容と治療で期待できること、効果的に治療が進むための生活方法を理解し、生活を調整することで悪化した症状に振り回されない生活が送れる
・ 患者家族が疾患とその治療について、どのように受け止めているか把握する
・ 食事などの生活上の留意事項をどの程度理解しているか把握する
6社会的役割や社会生活の支障、ソーシャルサポートの把握
起こりうる看護問題:社会的支援の不足による闘病生活困難/生き甲斐の消失
疾患を抱えていることや栄養療法の実施、症状の悪化などにより、社会的役割が果たせず、生きる意味生きがい人生の目標などを見失うことも考えられる。
家族はもとより学校や職場の友人や同僚・上司の理解と支援があることで前向きな生活を送ることができると考える
・ 生活の実際を尋ねるとともに、どんな生活を望んでいるか把握する
・ 患者自身の社会的役割と学校や職場の仲間や同僚に、疾患について話しているのか知る。人に話せないことは社会での役割を果たすうえで障壁となる
・ 医療ソーシャルワーカーに、どのような社会資源を活用できるのか相談する
参考資料:疾患と看護過程
コメント