摂食嚥下障害・基礎訓練と摂食訓練の一覧
目的又は対象障害(基礎訓練)摂食訓練。
・ リラクゼーション(頸部体幹の運動、呼吸法)
・ 呼吸筋の強化(腹式呼吸、運動機能維持向上)食前の嚥下体操。
・ 嚥下筋群の強化(頭部挙上訓練・喉頭挙上筋群)食前の嚥下体操。
・ 声門閉鎖の強化(ブローイング訓練)息こらえ嚥下。
・ 嚥下反射惹起不全(のどのアイスマッサージ、嚥下反射、キーポイント刺激)摂食中にも応用、氷なめ。
・ 開口障害(キーポイント刺激法、神経筋ブロック)スライス法、一口量。
・ 鼻咽腔閉鎖機能不全(鼻腔へ食物が逆流するなど)ブローイング訓練、口すぼめ呼吸、ストローを拭く)鼻つまみ嚥下。
・ 認知症により注意集中力低下(生活リズム、口腔ケア)摂食のペース、環境整備、半自力摂取、嚥下の意識化、少量頻回の食事。
・ 流涎の減少(皮膚のアイスマッサージ)リクライニング位。
・ 口への取り込み(口唇の運動、口唇音の産生・ぱ行ま行)リクライニング位、徒手的に下顎の挙上と口唇閉鎖を介助、スプーンの選択や改良。
・ 口腔内残留の減少(口腔器官の運動)複数回嚥下、交互嚥下、リクライニング位。
・ 咀嚼と食塊形成の改善(口唇、頬、舌の運動)食事の調節。
・ 咽頭残留、誤嚥(声帯内転術)交互嚥下、複数回嚥下、随意的な咳、発声、一口量、スライス法、横向き嚥下、一側嚥下、頸部前屈。
・ 食道通過障害、胃食道逆流(空嚥下)複数回嚥下、交互嚥下、食後のギャッジアップ、食後の運動。
・ 常に痰が絡みゴロゴロしている(ハイフイング、咳嗽訓練)交互嚥下。
・ 食道入口部開大不全(バルーン法、メンデルゾーン手技、頭部挙上訓練、嚥下機能改善の手術)頸部突出法、一側嚥下、横向き嚥下。
・ 口腔内に保持したまま送り込まない( なし )キーポイント刺激法、発声法、赤ちゃんせんべい法。
・ 咽頭への送り込み障害( なし )奥舌に食物を入れる、リクライニング位。
口を開けてくれない人への対応
口を開けてくれない場合には次のことが考えられます。
① 顎関節の拘縮がある場合。
② 拒食などで意図的に口を閉じている場合。
③ 咬反射が強いためにスプーンや食べ物、あるいは歯ブラシなどが口に触れると反射的にかみこんでしまう場合。
③の場合は、両側の大脳損傷の結果起きる仮性球麻痺患者にみられる症状です。あくびの時には口を開くことが出来るので以下の方法が有効です。
キーポイント刺激法
上下の歯をかみ合わせた時の頂点の内側に健常者では特別に敏感に感じるポイントがあります。これがキーポイントです。
滅菌済みの手袋をはめ、頬の内側を歯列に沿って奥へ指を勧め臼歯の奥の舌側に挿入すると、爪の部分がキーポイントにあたります。
そこを軽く圧迫刺激すると開口が促されます。
摂食の際には開港した時に素早く食べ物を入れると、咀嚼様運動に続き嚥下が促されます。
また口腔ケアの際には開口が促されたらバイトブロックを差し込み、ケア終了後再度キーポイント刺激で開口を促し、バイトブロックを外すというやり方をします。
安全でかつ歯への負担も少なくて済みます。
キーポイント刺激は、より麻痺の強い側のキーポイントを刺激すると有効です。
摂食嚥下障害・患者指導のポイント
患者さんやご家族指導の時のポイントを紹介します。
① 患者さんやご家族の話は良く聞くがうのみにしない。
症状を聴く時に、「むせていません」「ゆっくり食べています」「3食全部食べています」などと多くの患者さんやご家族が答えます。しかしそのまま聞いて信じると怪我をすることがあります。
根掘り葉掘り具体的に聞くことや、実際に食べる場面を観察することが大切です。以前私の外来で「全然むせていない」と患者さんについて説明してくれる家族がいました。
どうもおかしいと思い詳しく状況を聞くと、その人は実際に患者さんと一緒に食事をしていないことが分かりました。3食食べていると報告されている患者さんの体重が減少するので良く調べてみると、一食の量が少ないという場合もあります。
話だけではなく、症状や全身状態を見て指導することが大切です。
② わかりましたと言っても確認する。
指導して「わかりました」と言われても必ず確認しなければいけません。復唱してもらう、実際にやってもらう、家での実施状況を手帳につけてきてもらう、訪問スタッフに確認してもらう、これらを確実に行うことが大切です。
指導内容は紙に書いて渡したり、技術指導は可能な限りビデオに録画して渡すようにします。
③ ビデオを見せる。
口頭で説明したり、絵で説明することも大切ですが、動画で具体的に見てもらうことが有効です。摂食法、各種リハビリテーションテクニック、嚥下体操、バルーン法、嚥下食の作り方などビデオを見せて指導することをお勧めします。
④ 複数の人に教える。
患者さんだけに指導してもあまり指導が行き届かないことがあります。ご家族にも同時に指導しておくと指導中に質問も出て、あやふやな点を教えあったり間違いを修正したりするなどで理解が深まります。
⑤ 同じ内容を複数の職種で指導する。
一見非効率的な事のように感じられるかもしれませんが、同じ内容でも医師が説明するのと、言語聴覚士(ST)や看護師が説明するのでは視点が違うし患者さんやご家族の緊張度が異なります。
2度目3度目はより理解が深まるなどで、同じ内容を複数の職種で指導することは最終的に良い結果に繋がります。急がば回れという事です。
⑥ フォローする。
一度理解したことでも、時間が経つと忘れてしまったりいい加減になるものです。定期的にフォローして確認をとることが大切です。
摂食嚥下障害の原因疾患
障害のタイプとしては嚥下運動をつかさどる神経系および筋肉の働きに異常が生じた場合と、局所の嚥下組織に異常が生じた場合に得あけて考えます。
最も多い原因は脳血管障害(脳卒中)です。高齢者では、麻痺などの明らかな症状が無くても脳には病変が認められることが多く、無症候性の脳血管障害と呼ばれます。
このような時に他の病気で全身状態が悪化すると嚥下障害が顕在化してきます。高齢者では常に摂食嚥下障害に注意が必要です。
器質的障害を起こすもの
口腔・咽頭
・ 舌炎、アフター、歯槽膿漏。
・ 扁桃炎、扁桃周囲膿瘍。
・ 喉頭・咽頭腫瘍(良性悪性)
・ 口腔咽頭部の異物術後。
・ 外からの圧迫(頚椎症、腫瘍など)
・ 咽頭炎、喉頭炎、咽後膿瘍。
・ その他。
食道
・ 食道炎、潰瘍。
・ ウエップ、憩室。
・ 狭窄、異物。
・ 腫瘍(良性悪性)
・ 食道裂肛ヘルニア。
・ 外からの圧迫(頚椎症、腫瘍など)
・ その他。
機能的障害を起こすもの
口腔・咽頭
・ 脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷。
・ 脳膿瘍、脳炎、多発性硬化症。
・ パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症。
・ 末梢神経炎(ギランバレー症候群など)
・ 重症筋無力症、筋ジストロフイー。
・ 筋炎(各種)、代謝性疾患(糖尿病など)
・ 薬剤の副作用、経管栄養チューブ。
・ その他。
食道
・ 脳幹部病変。
・ アカラジア。
・ 筋炎。
・ 強皮症、全身エリテマトーデス。
・ 薬剤の副作用。
・ その他。
心理的原因となり嚥下障害を起こすもの
・ 神経性食欲不振症、痴呆(認知症)、拒食、心身症、うつ病、うつ状態。
・ その他。
参考資料:摂食嚥下障害ガイドブック
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