胃瘻(PEG)からの栄養投与後の下痢
胃瘻(PEG)からの投与開始後の下痢は、どうする?
・下痢は経腸栄養施行時に20~30パーセントに発生し、最大の合併症です。液状経腸栄養剤の幽門通過速度は非常に早く、投与速度に比例して小腸への負担が増えます。
・絶食期間が長いと腸管粘膜の萎縮が発生し消化吸収能が低下すること、大腸内での細菌叢が変化し水分吸収能が低下します。これらの要因で下痢が発生します。
経腸栄養時に発生する下痢の原因
① ボーラス投与
② 投与速度の過剰
③ 栄養剤の高浸透圧
④ 栄養剤の汚染
⑤ 低温栄養剤の投与
⑥ 消化吸収障害
⑦ 腸管感染症
経胃瘻経腸栄養時の下痢への対策
① 栄養剤の衛生と温度管理。
② ボーラス投与を持続投与へ変更
③ 投与速度も減速
④ 食物繊維の配合・増量
⑤ 消化管・栄養成分への変更
⑥ 偽膜性腸炎の有無も診断
⑦ 消化吸収障害の有無を診断
常事行う事
・ 経腸栄養管理の基本ですが、低温の栄養剤投与は禁忌です。
・室温以上で投与します。
・加熱するとタンパクが変性しますので注意が必要です。
・栄養剤の汚染が起こると細菌が急激に増殖します。
・栄養剤は開封後6~8時間以内に投与を完了します。
投与速度の調節
・ ボーラス投与は持続投与へ、持続投与は投与速度の原則を行います。
まず1/2の速度歳1~2日みて改善傾向がなければさらに1/2とします。
下痢が改善傾向になればいったん中止します。
・ 持続投与の場合経腸栄養用ポンプの使用が効果的です。
腹腔内圧は大きく変動する為自然落下では安定した速度の維持が困難です。
食物繊維の負荷・増量
・ 現在ほとんどの経腸栄養剤に食物繊維が配合されています。
含有量は大きく異なります。100キロカロリーあたり1,8~2,0グラムを含むものを選択すると下痢の抑制に効果があります。
・ 不溶性食物繊維は腸管粘膜上皮細胞を刺激し、粘膜の増殖を促進することで消化吸収能を改善します。
水溶性食物繊維は栄養素の吸収時に水の吸収も促進されます。
栄養剤の半固形化
・ 栄養剤の粘度を高めて半固形化すると胃からの排出速度が緩徐になり投与速度を減速したと同じ効果が得られます。
半固形化による消化吸収についての影響についてはまだ不明の点もあります。
栄養剤の希釈
・ 高い浸透圧による下痢に有効ですが、胃は本来非常に高い浸透圧の食事を受容する場所です。
また胃液による希釈も速やかにおこるため、胃ろうからの投与時にはこの対策は無効です。
感染性下痢対策
・ 偽膜性(薬剤性)腸炎では嫌気性菌(クロストデイウム・デイフィシル)が原因であることが多く便中のCD抗原を測定すると診断が可能です。
バンコマイシンの経口経管投与を行います。
消化吸収障害
・ 消化吸収を生じる疾患。
① 胃切除後ー貯留能の低下と早期排出、食事量の低下と消化不良。
② 胃全摘徐後ー貯留能の低下と早期排出、食事量の低下と消化不良、鉄ビタミンB1吸収障害。
③ 短腸症候群ー全栄養素の吸収障害と腸管内異常発酵。
④ 肝機能障害ー胆汁分泌減少、脂肪吸収障害。
⑤ 吸収不良症候群ー全栄養素吸収障害、脂肪ビタミンB12吸収障害。
⑥ タンパク漏出性胃腸症ータンパク喪失。
⑦ 膵機能障害ー三大栄養素の消化能低下。
ワンポイントアドバイス
下痢は経腸栄養の最大の合併症ですが殆どの症例は克服できます。
ポイントは安易に投与を中止しない事です。
経腸栄養を継続しながら対策をとりましょう。
PEG実施後の早期合併症・対策と予防
PEG実施後の早期合併症には感染性合併症として瘻孔周囲炎などの創部感染、腹膜炎、誤嚥性肺炎などがあり、非感染合併症としてはPEGチューブの自己抜去、皮膚潰瘍などがあります。
PEG造設に伴う合併症
・誤嚥性肺炎。
・喉頭痙攣。
・腹膜炎。
・敗血症。
・胃出血。
・胃穿孔。
・多臓器誤穿刺。
・ショック。
・心、呼吸停止。
PEG実施後早期合併症
① 感染性合併症。
・ 創部感染(瘻孔周囲炎)。
・ 誤嚥性肺炎。
・ 壊死性筋膜炎。
・ 限局性、汎発性腹膜炎。
② 非感染性合併症。
・ PEGチューブの自己抜去。
・ 皮膚潰瘍。
・ チューブ閉塞。
・ 胃潰瘍。
・ 皮下気腫。
・ 胃食道逆流、誤嚥、嘔吐、下痢。
PEG実施後晩期合併症
・ 誤嚥性肺炎。
・ 胃食道逆流、誤嚥、嘔吐、下痢。
・ 自己抜去。
・ チューブ誤挿入、位置異常。
・ チューブ閉塞。
・ バンパー埋没症候群。
・ カンジダ性皮膚炎。
・ 栄養剤漏出。
・ 胃潰瘍。
・ 胃結腸瘻。
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PEG後の早期合併症は主として
① 胃瘻カテーテルや瘻孔に関連するもの、②栄養剤の投与や代謝に関連するものに分けることが出来ます。
① については、瘻孔のストレスになることを極力排除することがポイントです。
② については、個々の症例の消化管機能と代謝能力に合わせた栄養投与を実施することがポイントです。
合併症と予防策
・ 胃瘻カテーテル自己抜去ー上肢の抑制、腹帯の使用。
・ 瘻孔周囲炎・瘻孔周囲膿瘍・瘻孔壊死ー過度の締め付けの防止、カテーテル固定の工夫。
・ 逆流・嘔吐・下痢ー投与スピードの調整、胃内減圧、頭側挙上、半固形化栄養。
・ 高血糖ー耐糖能の評価、定期的な血糖値のチェック、緩徐な高カロリー増量。
ワンポイントアドバイス
PEG実施後の早期合併症の創部感染や呼吸器感染の主な原因菌は、口腔内や咽頭の細菌です。PEG造設術施行前や施行中には、入念な口腔ケアが重要です。
瘻孔の管理はある意味褥瘡予防に似ています。
過度な圧力がかかると疎血性の壊死が生じ様々な合併症に発展します。
栄養剤投与では、個々の患者さんに合わせた投与方法の工夫が肝要です。
日々しっかりと観察する事が重篤な合併症を防ぐことに繋がります。
PEG造設後のリハビリテーションは?
PEG造設後のリハビリテーションでは、栄養管理が適切に行われたうえで訓練を行うことが可能です。
また半固形化栄養材を使用することで短時間での注入と逆流予防としての効果が可能となり、より安全に十分なリハビリテーションを行うことが可能です。
栄養管理とリハビリテーション
・ 栄養管理は全ての疾患治療に共通する基本的医療の一つであり、リハビリテーションを行う上でも重要な要素となります。
・ 生体が飢餓状態に陥った際には、肝臓や筋肉のグリコーゲンを優先的に分解します。
さらに蛋白質が崩壊しアミノ酸を生成し、其れを基質とし糖新生や生命維持に必要なたんぱく質を作り出すようになります。
したがって骨格筋や平滑筋までも委縮し始め全身の機能低下につながります。
・ 高齢者は加齢性筋肉減少症を認めることが多く、良質なたんぱく質を中心とした適切な栄養管理が重要です。
栄養管理法の違いがリハビリテーションに及ぼすメリットとデメリット
・ 栄養管理法選択の大原則は経静脈栄養より経腸栄養、経腸栄養よりも経口栄養であるとされています。
・ リハビリテーションが必要な症例の中には経口栄養が不能な場合があります。
・ 経静脈栄養では必要な栄養素が十分に投与できないことがあります。
・ 経腸栄養においても経鼻経腸栄養を選択した場合、長期留置における患者さんの苦痛や胃食道逆流とそれによる肺炎、食道潰瘍や美容上の問題などが起こることがあります。
・ 経鼻経腸栄養では摂食嚥下障害患者においては、カテーテル留置による嚥下反射の減弱やカテーテルが邪魔になり嚥下運動が妨げられます。
・ しかしPEGに関しては上記の問題が解決され比較的短時間での投与が可能な事からスムーズにリハビリテーションを行うことが出来ます。
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PEG造設後にリハビリテーションを行うことによる効果
・ PEG造設後にリハビリテーションを行うことで、必要なエネルギーや栄養素を安全に十分投与したうえで訓練を行うことが出来ます。
半固形化営養材使用によるメリット
・ PEG造設後のリハビリテーションにおいてのメリットに栄養材の半固形化が考えられます。
・ 短時間で投与できることから、リハビリテーションやADLの時間が十分に確保できます。カテーテルを気にしなくても良いというメリットもあります。
ワンポイントアドバイス
PEGが造設され、適切な栄養管理が行われればリハビリテーション関連職種と連携し、摂食嚥下訓練なども含め、しっかりとその後のリハビリテーションを行いましょう。
また半固形化栄養材を用いれば、さらにリハビリテーション流行りやすくなります。
参考資料:胃瘻管理Q&A
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